早くに結婚して、右も左もわからないまま東京での暮らしがはじまりました。
友達もいない、知り合いもいない。夫は激務で単身赴任、子育ては毎日ひとりで。お金にも余裕はなく、夫婦関係もうまくいかなかった時期がありました。
孤独感と不満を抱えながら、それでも毎日をなんとかやり過ごしていた、そんな頃のことです。
外に出ることで、埋めようとしていた
あのころの私は、とにかく外へ出かけていました。
築40年ほどのボロボロの社宅。月8000円という破格の家賃だったけれど、とにかく家にいたくなくて。しょっちゅう外食をして、お店に入ればとくに必要でもないものを買って。家に帰るとすぐ飽きて、また外へ。その繰り返しでした。
今思えば、外に出ることで孤独を紛らわせようとしていたんだと思います。でも、何をしても何を買っても、本質的には満たされなかった。心のどこかにいつもぽっかりと穴が開いているような感覚でした。
転機は、思いがけないところからやってきた
2人目を妊娠したとき、切迫早産で寝たきりの生活を強いられることになりました。
外に出られない。買い物にも行けない。それまでの「外で埋める」という方法が、完全に使えなくなったんです。
はじめは正直、苦しかった。でも動けないからこそ、ゆっくりと「暮らし」と向き合う時間ができました。自分はどんな部屋で、どんな毎日を過ごしたいのか。何があれば、心地よくいられるのか。
ベッドの上で、そんなことをぼんやりと考え続けていました。
少しずつ、暮らしを整えていった
まず手をつけたのは、収納に使っていたカラーボックスを処分すること。代わりに、ずっと気になっていた白いチェストを思い切って購入しました。
たったそれだけのことなのに、部屋の空気がすっと変わった気がしました。「あ、これが私の好きな空間だ」と初めて感じた瞬間でした。そしてそのとき初めて、理想の暮らしへの具体的なイメージが湧いてきたんです。
その頃、夫がブラックな働き方に限界を迎えて転職を決意。次の仕事が決まっていない状況の中で、私たちは逃げるように次の住まいを探し始めました。
ずっと憧れていたタワーマンション。いつも外から眺めては「あそこの人たちはどんな暮らしをしているんだろう」と想像していた場所です。たまたま空きが出た12階の1LDK。払えるかどうか少し怖かったけれど、「これは縁だ」と思い切って契約しました。
その後、夫の転職は成功。年収も上がり、家賃補助の手厚い会社だったこともあって、生活は一気に変わりました。綺麗なマンション生活に満足して、さらに上層階へ。景色は素晴らしく、あのころ夢見ていた住まいを、ついに手にしたはずでした。
でも、コロナ禍の中でふと気づいてしまったんです。
表面的には理想の暮らしを手に入れたように見えていたけれど、中身が伴っていなかった、と。夫婦関係、ママ友との関係、ひとりで抱えていた育児。タワーマンションの高層階で、私はますます孤独感を深めていました。
本当に手に入れたい家庭って、どんなものだろう。
本当に望む暮らしって、何だろう。
そう自分に問い続けるうちに、あれほど憧れたタワーマンション生活にも、だんだんと違和感を覚えるようになっていきました。
その後、子どもの学校でのトラブルをきっかけに、引っ越しを決意。離婚を覚悟して新しい住まいを探す中で、「やっぱり家族でリスタートしたい」という気持ちにたどり着き、郊外の普通のマンションへ移りました。
タワーマンションとは比べものにならない、どこにでもある普通の部屋。でもそのとき私は初めて思ったんです。「この中でも、理想の暮らしは作れる」と。
子育てしやすい環境に移ったことでメンタルが安定して、インテリアにこだわったり、生活習慣を見直したり。断捨離を重ね、本当に好きなものだけを手元に残していく。華やかさではなく、地に足のついた自分らしい暮らしを、ひとつずつ丁寧に作っていきました。
今では、おうちで過ごす時間も、家族で過ごす時間も、ひとり時間も。どれもが特別で、大切なものになっています。
気づいたら、お金も整っていた
暮らしが整っていくにつれて、不思議なことが起きました。
無駄遣いが、自然と減っていったんです。
何かを買おうとするとき、「これは本当に必要?」「これを見るたびにときめく?」と自然に考えるようになっていました。外食も、本当に行きたいときだけ。ものも、本当にときめくものだけ。あとは体験や、自分を豊かにしてくれることに使うように。
そうしていたら、いつの間にかお金が貯まっていました。節約しようと頑張ったわけではないのに。
読んでいるあなたへ
あのころの私は、心の穴をお金で埋めようとしていました。
買えば満たされる、出かければ楽になる。そう思っていた。
でも違った。お金を使っても使っても、穴は埋まらなかった。
本当は逆だったんです。
心が満たされてはじめて、「本当に欲しいもの」が見えてくる。
必要なものと不要なものの境界線が、自然とはっきりしてくる。
そうなったとき、お金の使い方は静かに、でも確かに変わっていきます。
暮らしを整えること。自分の心を満たすこと。
それは節約でも我慢でもなく、豊かさへの、いちばん近い道だったと今は思っています。
完璧じゃなくていい。小さな一歩で十分。
あなたのペースで、ひとつずつでいい。